7階のベランダから眼下にある淀川は、流れているのか、はたまた逆流しているかにも見え、悠然たるものがある。昔は浅瀬や芦の間に水が溜まる景観も多かったであろう。“淀む川”とは、よくぞ名付けたものである。
  難波江の芦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき 
 
 まだ枯れ芦がまばらに広がっている。そのせいもあり、最近はホームレスの青テントが余計に目立つ。が、まもなく岸の木々も若葉たわわに生き返る。
 河川敷には野球やサッカーに遊ぶ子達、堤防にはジョギングをする老人やや犬を連れて散歩する人で早朝から賑わう。
 東にはテレビ塔が林立する生駒・信貴山系が見える。そして南に、夜ともなればパノラマサイズで輝きを増す大阪市街があり、ライトアップした大阪城も高層ビルの合間にやっと覗く。あつかましくも、これらが我が家の前庭である。
 
 この淀川ほど歴史の流れを映す川はなかろうと思う。淀川は大阪の四天王寺詣でや熊野詣で、四国金毘羅参り、須磨、明石をへての西国への旅の要路であった。天皇や平安貴族も船旅を楽しんでいる。源平合戦や南北朝時代,戦国時代には戦に向う武士が、そして幕末には坂本龍馬などの志士が往来したであろう。また、商業が開けた室町時代以降は商人の往来も盛んになった。
 歌人や俳人についていえば、万葉歌人や業平や西行のような平安歌人も、芭蕉や蕪村、良寛らの江戸俳人も舟で淀川を往き来しているし、また、鎌倉時代の僧侶、法然は川旅の途上で遊女との伝説を生み出している。そして、野次さん北さんのように庶民の旅の交通手段が、淀川の三十石船であった。
 ただ、洪水を防ぐためにできた堰によって、京都から大阪河口までの船の運航はできなくなったのは寂しい。
 
 ところがなんと、桂川、宇治川、木津川の淀川合流地点から河口までの全長約四十キロに桜を植えようとの運動が始まっており、すでに最初の植樹が3月に行なわれているというのだ。すばらしいではないか!淀川堤防が桜の街道になるのだ。余輩が朽ちるのが早いのか、桜が咲き始めるの早いのかは分からないが、寄付金がどんどん集まって植樹が加速化するのを祈る。
 淀の河畔に桜が咲き誇る頃には、遊覧の船も往き来し、歌舞管弦雅び船や義経勇壮船、西行・遊女幽玄船、芭蕉・蕪村侘び船などから構成される「時代船祭り」が催されれば、いとをかしだ。             (2005年4月1日)

 この3月に淀川桜街道構想のもと、植樹された桜を10数本目にすることができた。まだ、ひ弱い若木であり、葉がげんきのないものもあったが、子供たちが手書きした板が枝に掛かっていた。
 50年後には京都までの40km両岸に桜を咲かそうという50年、100年の夢計画ではあるが、そのスタート地点を確認できて、一瞬でも将来の素晴らしい情景を思い描けたことは幸せである。         (2005年6月8日)

 NPO淀川さくら街道ネットワークがクレオ大阪でシンポを開催。20代から95歳まで50人ほどが参加。最初の植樹の模様が放映されたが、子供たちの桜に対する思いが伝わってきた。(このDVDは200円で購入した)
 徳島県神山町で十年以上にわたって桜の植樹活動を続けておられるグループの85歳になる会長のパワーポイントの映像を映しての力強い講演には会場から大きな拍手。ほかに桜研究者、国交省・淀川河川事務所の方、竹中工務店の環境カウンセラー、淀川マラソンの主催者もきて話され、いろんなメンバーが参加していることが分かった。
 
  ただ、余輩が先週、城北公園内に植樹された木を観察して、枯れていたりして危なげに感じたように、専門家から育成には難があると指摘された。木は育成2年までのものでないと育ちにくいのに3年〜ものが植えられたそうだ。
 まだまだ陣営は小規模だし、沿岸の自治会、老人会、学校、子供会、ボーイスカウトなどを巻き込んでいかないと、植え終えるのにも50年もかかってしまう。2030年に植樹完了は可能との話しにはちょっと安心はしたが。
 また、植えっぱなしでは駄目で、管理体制が整わないと失敗してしまう。 しだれ桜は300年の寿命が可能だそうで、その美しい姿からも、これが中心に植えられれば先が楽しみだ。咲き誇った街道を見て歩く日は夢の夢なれど、だからこそ夢なんだ。                    (2005年6月14日)

 

 
 
 
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