今日、紅茶店「ムジカ」で2度目のお茶を飲んた。
大阪堂島で53年の商いであり、店はオープンなレイアウトで、棚には古今の紅茶の容器がギッシリ並んでおり、壁にセイロンの茶園などの写真が掲げられ、また当店に関わりのある新聞・雑誌の記事を綴じたスクラプ・ブックが書棚に立てかけてある。レトロな雰囲気が全体に漂う。こんなフィーリングの店は他に知らない。
BGMの歌曲やジャズが良き日のサロンの雰囲気を演出する。店主の」堀江さんは服装にこだわらず、気さくな応対ぶりで旧知の人のようでリラックスできる。
ヌワラ・エリアとケーキのセット(740円)をいただきながら、『関西弁で愉しむ漢詩』(桃白歩実)というへんてこな新刊書を読みながら、やすらぎの午後を過ごした。
ふだん、紅茶といえば、家で「アールグレイ」、外では気軽にエクセルカフェで「アッサム」(250円)などを愛飲しているが、元々紅茶を好きだったわけではない。
若い頃は、粋がって純喫茶店で「ブラックコーヒー」を啜り、ショートピースを吸ったりしていたが、上京してコーヒーを飲む頻度が増えると、同僚の影響もあり「アメリカンコーヒー」(砂糖入り)に変更。
次に、シンプルに砂糖抜きの「アメリカンコーヒー」にチェンジ。これが25年ほど続いた。タバコもほぼ同時期に止めている。
この間、紅茶を愛好する仕事仲間を「紅茶君」などと、内心馬鹿にしたこともあった。
ところがどうだろう。27年ぶりに帰阪して、友達の家で奥さんが入れてくれた紅茶の美味しさに感嘆。
これを契機に、喫茶店や家で紅茶を試すようになり、今や紅茶がメインで、アメリカンは気分転換程度に飲むというスタイルになった。紅茶を飲むと安らぐし、癒されるのだ。
ヒトなんて、年齢、環境の変化、新たな経験機会への出会いなどにともない、嗜好は変わっていくということを知った。一つのものに頑固にこだわった時期も合ったが、いろいろな味に出会えてよかった。
コーヒーから紅茶へ嗜好の変遷と同じように、酒の嗜好も変化している。酒の飲み始めは甘口(日本盛りなど)でないと受けつけず、しばらくして剣菱のようなほどほどの中辛へ、さらに酒量が増えるに従い菊正宗→大関と辛口へ嗜好が移行。
ところが歳とともに、あまりの辛口には耐えられず、再び、白鶴、そして白雪のような甘口タイプにリターン。
外飲では、淡麗辛口の吟醸酒や純米酒一辺倒から、芳醇甘口も併飲するといった具合である。
歳とともに刺激の強すぎるものには耐えられなくなるようだ。
また、刺激が強く味覚の感覚をマヒさせるタバコのヘビースモーカ時代にはドリンクも濃厚なものを求めたが、やめれば、さっぱりしたものへと嗜好が移ることが分かる。
そして、コーヒーのように飲量が増えると、味の淡いもの(アメリカン)を求めるという生理的現象もあるようだ。
こんなことを考えながら、「喫茶去」(まあ、お茶でも飲んで行きなされ)という感じで暖かく迎えてくれたムジカを後にした。
ビルの谷間を寒風が舞っていた。 (2005年2月)
紅茶と酒の嗜好変化
俳句 淀風庵