最近、朝刊で連載が始まった渡辺淳一の小説『愛の流刑地』は、不倫関係にある主人公の作家と人妻との官能的な描写もあって、読者に人気らしい。そういえば、仲間のある男性が、この小説を毎朝読むのが密かな楽しみであると語っていた。あんた、幾つや、ええかげんにせえよ、とは言えなかった。

 そういえば、2年ほど前、渡辺淳一の講演を聴く機会があった。そのとき、島村抱月が恋愛関係にあった新劇女優の松井須磨子に宛てた恋文の話に、会場も沸いたのを思い出す。
 抱月は、大正時代に活躍した文芸家、演出家である。年配の方には『カチューシャの唄』は知られているが、彼はその作詞者でもある。
 
 ♪カチューシャかわいや
  わかれのつらさ
  せめて淡雪とけぬ間と
  ~に願ひを(ララ)かけましょか♪

 この唄が象徴するかのように、抱月は歳の離れた恋多き女優の松井須磨子を熱愛し、書き記した恋文には、

「抱きしめて抱きしめて
 セップンしてセップンして
 死ぬまで接吻してる気持ちになりたい
 あァちゃんへキッスキッス」

とあって、読むほうが気恥ずかしいが、直情的で単純明快な言葉であり、思いが伝わるメッセージであろう。
 さらに、「あなたはかわいい人、うれしい人、恋しい人、そして悪い人」と書き、外聞をはばからず彼女に溺れ、早大教授を辞め、妻と5人の子を捨てるに至る。なお、この恋文については、渡辺淳一編『キッスキッスキッス』に詳しい。
 
 2人を中心に芸術座が立ち上げられるが、やがて、須磨子から感染したスペイン風邪により抱月は47歳で急死する。その2ヵ月後に、34歳の須磨子は同じ場所、同じ時刻に後を追って自殺したのである。

 それにしても、『愛の流刑地』はちょっと気になり、仲間に話を聞いて以来、会社でさっと目を通してしまうことがある。内容はありふれていて、飽きてくるが、ちょっとドキドキする。
 ビジネスマンのオヤジ連中が、朝からこんな小説に溺れて、興奮して、はしゃいでいるようじゃ、また、掲載している日経新聞もビジネスマンのストレス発散にと一服盛っているかと思うが、情けない。
 抱月と須磨子の物語とか歴史小説を読んでたほうが良いと思う。                                                (2005年3月30日)
 

 
 
 
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