吟醸抄 
 藤村は32歳(明治37年)のときに『若菜集』ほかの詩集を発表するにあたって、自ら「遂に、新しき詩歌の時は来たりぬ」と宣していますが、まさに日本の近代詩のさきがけであり、平易な言葉で詩情豊かに青春のロマンや陰影を謳いあげています。
 ここでは抒情詩四編を紹介します。これらは「老いた旅人との別れ」や「濁り酒を飲む孤独な旅人」など“旅と酒”を題材とした詩、および「笑いの酒」「悲しみの盃」「恋の盃」といった表現にみられるように酒に思いを託して詠んだ詩です。     由 無
        参考:『藤村詩抄』(岩波文庫)
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子(ゆうし)悲しむ
緑なすはこべは萌えず
若草もしくによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡辺
日に溶けて淡雪流る
             
           
暮れ行けば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む
       (2、3連略) 
   島崎藤村
明治5年〜昭和18年
長野県馬籠生まれ、明治学院卒、英語・国語の教師を経験、詩人、小説家(『破戒』など)
旅と旅との君や我
君と我とのなかなれば
酔うて袂の歌草を
醒めての君に見せばやな
 
若き命も過ぎぬ間に
楽しき春は老いやすし
誰が身にもてる宝ぞや
君くれなゐのかほばせは
・・・・・
名もなき道を説くなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐なきことをなげくより
来たりて美き酒に泣け 
光もあらぬ春の日の
独りさみしきものぐるひ
悲しき味の世の知恵に
老いにけらしな旅人よ

心の春の燭火に
若き命を照らし見よ
さくまを待たで花散らば
哀しからずや君が身は

わきめもふらで急ぎ行く
君の行衛はいづこぞや
琴花酒のあるものを
とどまりたまへ旅人よ   
酔 歌
千曲川旅情の歌
酒の詩歌句集目次
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
           
           
初 恋 
(右上へ)
秋は来ぬ 
  秋は来ぬ
一葉は花は露ありて
風の来て弾く琴の音に
青き葡萄は紫の
自然の酒とかはりけり
             
           
秋は来ぬ 
  秋は来ぬ
あくれさきだつ秋草も
みな夕霜のおきどころ
笑ひの酒を悲みの
盃にこそづぐべけれ            (3連略) 
秋 思
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
      (2、4連略)
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BGM:ソノタ「テンペスト」
MIDI作者:Windy
http://windy.vis.ne.jp/art/
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