唐の時代における酒を詠んだ漢詩を紹介します。いずれ劣らぬ酒豪詩人の絶句や古詩です。酒を勧める送別の詩も多く見受けられます。「勧酒」には井伏鱒二の有名な妙訳を添えました。
なお、詩聖と呼ばれる杜甫は、李白と並ぶ酒好きで、1400首の
うち酒にちなむものが300首に及びます。 由 無
参考:長沼弘毅『酒のみのうた』
吉川幸次郎・三次達治『新唐詩選』
酔酒唐詩撰
王 維 「送別詩」
渭城朝雨潤輕塵 渭城の朝雨 軽塵をうるおす
客舎青青柳色新 客舎 青青として 柳色新たなり
勸君更盡一杯酒 君に勧む 更に尽せ 一杯の酒
西出陽關無故人 西のかた陽関を出ずれば 故人無からん
王 翰 「涼州詩」
葡萄美酒夜光杯 葡萄の美酒 夜光の杯
欲飲琵琶馬上催 飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催す
酔臥沙場君莫笑 酔うて沙場に臥するを 君笑うことなかれ
古来征戦幾人回 古来 征戦 幾人か回る
杜 甫 「可 惜」
可 惜 歓 娯 地 惜しむべし歓娯の地
都 非 少 壮 時 すべて少壮の時にあらず
寛 心 応 是 酒 心をくつろがせるはまさにこれ酒
遣 興 莫 詩 過 興を遣るは詩に過ぎるなし
杜 甫「曲江二首」
朝囘日日典春衣 朝より回りて日日春衣を典じ
毎日江頭尽酔帰 毎日江頭 酔いを尽して帰る
酒債尋常行処有 酒債尋常 行く処に有り
人生七十古来稀 人生七十 古来稀れなり
韋 荘「酒家に題す」
酒緑花紅客愛詩 酒は緑にして花は紅く客は詩を愛す
落花春岸酒家旗 落花の春岸 酒家の旗
尋思避世為逋客 尋思して世を避け世捨て人と為る 不酔長醒也是痴 酔わずしてつねに醒めたるは
是れ痴なるか
井伏鱒二訳「勧酒」
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
于武陵 「勧 酒」
勧 君 金 屈 巵 君に勧む 金屈の盃
満 酌 不 須 辞 満酌辞するをもちひず
花 発 多 風 雨 花ひらいて風雨多し
人 生 足 別 離 人生 別離足る