吟醸抄 
 北原白秋は明治42年に処女詩集『邪宗門』を発表しますが、浪漫あふれる抒情詩や抒情歌だけでなく、民謡・小唄、そして50曲もの童謡詩を詠っており、修辞の華やかさやリズム感が際立ちます。
 また、当時の詩にしてはウイスキー、キュラソーなど洋酒が登場して、エキゾチックな新感覚を醸し出していますが、白秋の生家は九州柳川の大きな造り酒屋であり、少年の目から見た酒蔵での作業員の恋物語も詠っています。いずれにしても、感傷的な詩ですね。
 白秋自身は酒豪で、吉井勇、高村光太郎、若山牧水など文人仲間と泥酔するまで酒宴を催すことも多かったようです。     由 無
 参考:『白秋抒情詩抄』(岩波文庫) 篠原文雄『日本酒仙伝』
金(きん)の酒をつくるは
かなしき父のおもひで、
するどき歌をつくるは
その児の赤き哀歡。
    *
もとすり唄のこころは
わかき男の手にあり
櫂をそろへてやんさの
そなた恋しと鳴らせる。
    *
足をそろへて磨ぐ米、
水にそろへて流す手、
わかいさびしいこころの
歌をそろふる朝あけ。
    *
微かに消えゆくゆめあり。
酒のにほひか、わが日か。
倉の二階にのぼりて
暮春をひとりかなしむ。
    *
さかづきあまたならべて
いづれをそれと嘆かむ、
利酒すなるこころの、
せんなやわれも醉ひぬる。
    *
その酒の、その色の、にほ
ひの口あたりのつよさよ。
おのがつくるかなしみに
囚られて泣くや、わかうど。
    *
かなしきものは棘あり、
傷つき易きこころの
しづかに泣けばよしなや。
酒にも黴(かび)のにほひぬ。
    *
銀の釜に酒を沸かし、
金の釜に酒を冷やす
わかき日なれや、ほのかに
雪ふる、それも歎かじ。


 
   北原白秋
明治18年〜昭和17年
福岡県柳川生まれ、早稲田大学中退。詩人・歌人・童謡詩人として新感覚の作品を多数発表。
酒を注ぐきみのひとみのほのかにも濡れて
愁ふる。
さな病みそ、街のどよみの小夜ふけて遠く
沁むとも。
       *
わが友よ。
君もまた色青きペパミントの酒に、
かなしみの酒に、
いひしらぬ慰藉(なぐさめ)のしらべを、
今日の日のわがごとも、
あはれ、友よ思ひ知り泣きしことのありや。
       *
あはれ、あはれ、色青き幻燈を見てありし
とき、なになればたづきなく、
かのごとも涙ながれし。
いざやわれ、倶樂部にゆき、友をたづね、
紅のトマト切り、ウヰスキイの酒や呼ばむ。ほこりあるわかき日のために。
       *
つねのごと街をながめて、ナイフ執り、
フオク執り、女らに言葉かはせど、
色赤きキユラソオの酒さかづきにあるは滿たせど、かなしみはいよいよ去らず、かにかくにわかき身ゆゑに涙のみあふれていでつつ。


  空に真赤な雲のいろ。
  玻璃に真赤な酒のいろ。
  なんでこの身が悲しかろ。
  空に真赤な雲のいろ。



  夕暮のものあかき空、
  その空に百舌啼きしきる。 
  Whiskyの壜の列
  冷やかに拭く少女、
  見よ、紅き夕暮の空、  
  その空に百舌啼きしきる。







 
創作句集 
酒の詩歌句集目次
断 章
酒の黴
(かび)
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
BGM:ソナチネ第一楽章
MIDI作者:konon
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
白秋の浪漫酒詩
空に真赤な
WHISKY
俳句 淀風庵
島崎藤村の酔歌
あゝ孤愁の酒場詩
智恵子抄より「梅酒」
心平・鱒二の日本酒詩
三好達治・丸山薫酒詩
吉野弘・酒痴の詩
サトウハチロー酒詩
黒田三郎・ビヤホールで
杢太郎の南蛮酒詩
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