吟醸抄 
創作詩集りべーら
 木下杢太郎は明治から昭和にかけて医師でありながら詩人、劇作家、画家としても活躍しています。
 白秋の『邪宗門』に刺激されて南蛮趣味、異国情緒の溢れる詩を詠んでいます。その意味で、ワードにシェリー、ペパミント、バア、ロメオとジュリエット、ステンドグラス、ギタルラなど外来語やローマ字が頻繁に現れます。                  由 無
    参考:『木下杢太郎詩集』(河盛好蔵編/岩波文庫)
投節を聴き帰る夜のペパミントは
味異なれども悲哀あひ似たりや。
その青き酒杯の底にくらき燈ともり、
男はうれしげに頬杖し、
女は耳許に口よせて暗示を與ふ。
ゆるやかなる音曲のうちには
雨後のぬれたる梧桐の葉に月かげさし、
蔵の窓より燈もれにじみぬ。
やはらかに、甘く、やや重き、小さい液体の珠は
冷やかに舌のさきより消えて、ただ耳鳴の
まだ残るうす暗やみに紅き幕音なく垂る。



 
   木下杢太郎
明治18年伊豆伊東生まれ。東京帝大医学部卒業後、教授を歴任。
学生時代北原白秋や吉井勇等の同人と九州を旅行し、天草など南蛮風に惹かれる。昭和20年死去。
創作句集 
酒の詩歌句集目次
平成吟醸会メモリアル
薄荷酒
(はっかざけ:ペパミント)
杢太郎の南蛮酒詩
該里酒
南島の夜
俳句 淀風庵
冬の夜の暖炉の(すとおぶ)
湯のたぎる静けさ。
ぽっと、やや顔に出たるほてりの
幻覚か、空耳かしら、
該里玻璃杯のまだ残る酒を見入れば
ほのかにも人の声する。
ほのかにも人すすり泣く。
・・・・・・
冬の夜の静けさに
褐く澄む該里の酒。
さう言ふは呂昇の声か、
乃至その酒の仕業か。
幕をあけて窓から見れば、
星の夜の小網町河岸
船一つ・・・・かろき水音。







 
喫するは是 ROMEO Y JULIETA
飲むは是 RIOJA、南国の酒。
LA FLORIDA
HABANA の酒舗。
窓に聴くギタルラ、
艶なり、歌曲。
劇錯、市の東、
街苑、月は斜め。
七月二十六日、
夜九時、号砲鳴りぬ。
さむしきかなや、異境。
故国、海はるばる。




 
(せりいさけ:シェリー酒)
(呂昇:落語家)
ROMEO Y JULIETA:ロメオとジュリエット
FAU-DE-VIE DE DANTZICK
黄金浮く酒、
おお五月、五月、小酒盞
わが酒舗の彩色玻璃
街にふる雨の紫。

をんなよ、酒舗の女、
そのたはもうセルを着たのか、
その薄い藍の縞を?
まっ白な牡丹の花、
触るな、粉が散る、匂ひが散るぞ。
・・・・・
FAU-DE-VIE DE DANTZICK
五月だもの、五月だもの――






 
金粉酒
(バアのステエンドグラス)
(リケルグラス)
島崎藤村の酔歌
あゝ孤愁の酒場詩
白秋の浪漫酒詩
智恵子抄より「梅酒」
心平・鱒二の日本酒詩
三好達治・丸山薫酒詩
吉野弘・酒痴の詩
富士正晴の酒遊詩
サトウハチロー酒詩
黒田三郎「ビヤホールで」
林芙美子酔いしれ詩
中原中也の独酒詩
戦地別れの酒詩
酒歌つれづれよしな記
雨ニモマケズ望酒詩