創作詩集りべーら
井上光晴「地 酒」
 井上光晴の作品から、土着の村人の悲哀を酒に託した「地酒」2編と「海が荒れると」を紹介します。
                            由 無
     参考:『酔っぱらい読本・肆』(講談社)
誰がこの地酒の深い
愁いをしるか
私と女は小鹿田焼の徳利で
四本のんだ
古ぬくい徳利の底を
黙って抱いていると
小指のつまさきから
じっとりと女の悲しみがつたわってくる

地酒こんこん
地酒は透きとおる九重の涙

  
  



 
 地酒 1
創作句集 
平成吟醸会メモリアル
  井上光晴
1926(大正15)年旅順生れ。共産党入党も除名される。
代表作は『ガダルカナル戦詩集』『地の群れ』『心優しき反逆者たち』など。
 故郷ともいうべき佐世保で文学養成所を開設した。
酒の詩歌句集目次
島崎藤村の酔歌
あゝ孤愁の酒場詩
智恵子抄より「梅酒」
心平・鱒二の日本酒詩
三好達治・丸山薫酒詩
吉野弘・酒痴の詩
富士正晴の酒遊詩
サトウハチロー酒詩
黒田三郎・ビヤホールで
林芙美子酔いしれ詩
杢太郎の南蛮酒詩
欧州
中東
中国
俳句
中南米
米国
民歌謡
粋歌
川柳
古詩歌
短歌
中原中也の独酒詩
戦地別れの酒詩
韓国
酒歌つれづれよしな記
雨ニモマケズ望酒詩
地酒 2
川底村は沈んでいく
荒れはてた田んぼ河原よ
半片の谷底月よ
水害で全滅した村よ
女の恋した若者よ
九重の天で星となれ

私は二合半の地酒で
意味もないことを想い
吊れかかった吊橋の下で
しみじみと酔っぱらって
呟くのである
川底村は沈んでいく

  
  



 
海が荒れると
海が荒れると
部落の軒が三寸さがる
女たちは
背中に布こんぶ巻いて
芋焼酎買いに走る

芋焼酎三合で布こんぶもう一枚
叩かれても蹴られても
じっとがまんする

海が荒れると
男たちはみんな鬼になり
アゴ場の女たちは
みんなむしになる

  
  



 
火野葦平「ビールの歌」