若山牧水 讃酒歌
 明治、大正から昭和にかけて国民歌人として親しまれた若山牧水は「幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく」の歌のごとく北海道から沖縄、朝鮮まで短歌を詠み、揮毫しながらの旅に明け暮れました。また、"酒仙の歌人"とも称され、旅と自然とともに酒をこよなく愛した漂泊の歌人です。
酒量たるや1日に1升以上を飲む大酒豪で「酒は心で噛みしめる味わいをもつ…」と讃歌してやまない牧酔?であり、人生の悲哀を酒と歌とで昇華しながらの旅は肝硬変により43歳で果てたのです。
 生涯に残した七千首のうち酒を詠ったものが二百首に及び、本抄ではその一部を紹介するにとどまります。    由 無
 参考:沼津牧水会『牧水酒のうた』、木俣修編『若山牧水歌集』(旺文社)ほか            
   
酒飲めば心なごみてなみだのみ かなしく頬を流るるは何ぞ
かんがへて飲みはじめたる一合の 二合の酒の夏のゆふぐれ
われとわが悩める魂の黒髪を 撫づるとごとく酒は飲むなり
酒飲めば涙ながるるならはしの それも獨りの時にかぎれり
いざいざと友に盃すすめつつ 泣かまほしかり酔はむぞ今夜
語らむにあまり久しく別れゐし 我等なりけりいざ酒酌まむ
汝が顔の酔ひしよろしみ飲め飲めと 強ふるこの酒などかは飲まぬ
友酔はず我また酔はずいとまなく さかづきかはしこころを温む
時をおき老樹のしづく落つるごと 静けき酒は朝にこそあれ
一杯を思いきりかねし酒ゆゑに けふも朝より酔ひ暮したり
朝日影さし入りて部屋にくまもなし しみじみとして酒つぐわれは
ものいはぬ我にすすむるうす色の 昼のひや酒妻もかたらず
寒鮒のにがきはらわた噛みしめて 昼酌む酒の座は日のひかり


鉄瓶のふちに枕しねむたげに 徳利かたむくいざわれも寝む
飲むなと叱り叱りながら母がつぐ うす暗き部屋の夜の酒のいろ
ひしと戸をさし固むべき時の来て 夜半を楽しくとりいだす酒
夜爲事のあと労れて飲む酒の つくづくとうまし眠りつつ飲む
ちんちろりん男ばかりの酒の夜を あれちろちろり鳴きいづるかな
妻子等を寝静まらせつ残りいて 夜のくだちゆく煮る真白酒
独りして飲む酒
心の合う友と飲む酒
朝 酒
夕暮れどきの酒
朝酒ややめむ晝酒せんもなし ゆうがたばかり少し飲ましめ
あな寂びし酒のしづくを火におとせ この夕暮の部屋匂はせむ
ほんのりと酒の飲みたくなるころの たそがれがたの身のあぢきなさ
病む母を眼とぢおもへばかたはらの ゆうふべの膳に酒の匂へる
ゆうぐれを労れて酌める一つきの 酒はなかなかさびしくぞ酌む
酒やめむそれはともあれながき日の ゆうぐれごろにならば何とせん
かんがへて一合の 二合の酒の夏の夕ぐれ
昼 酒
深夜の酒
珠玉の酒四首
(1)
それほどにうまきかとひとの問ひたらば 何と答へむこの酒の味
白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり
人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ
うまきもの心にならべそれこれと くらべまわせど酒にしかめや
創作句集 
酒の詩歌句集目次
(由無撰)
牧水
讃酒歌(2)
牧水
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  若山牧水
明治18年宮崎県生まれ、早大英文科卒、昭和3年肝硬変により43歳で死去。
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