続・山頭火吟遊酒句
朝酒朝鳥晴れてくる
朝酒したしう話しつづけて
天の川ま夜中の酔ひどれは踊る
あるだけの酒をたべ風を聴き
一杯二杯三杯よいかな風鈴
一杯やりたい夕焼空
お酒したしくおいてありました
お墓したしくお酒をそそぐ (井月の墓に)
おもひでがそれからそれへ酒のこぼれて
おわかれの酒飲んで枯草に寝ころんで
笠は網代で手にあるは酒徳利
風をあるいてきて新酒いっぱい
風がはたはた窓うつに覚めて酒恋し
火酒恋し青葉に注ぐ雨も慕はれて
今日も事なし凩に酒量るのみ
酒も豆腐も饅頭もみんなうまい
酒はない月しみじみ観てゐる
酒を買ふとてふんでゆく落葉鳴ります
酒がうますぎる山の宿にいる
酒がどっさりある椿の花
酒がやめられない木の芽草の芽
酒がほしいゆうべのさみだれ
酒飲めば涙ながるるおろかな秋ぞ
酒はこれだけお正月にする
酒はしづかに身ぬちをめぐる夜の一人
酒やめておだやかな雨
酒をたべてゐる山は枯れてゐる
酒がなくなりお月様なら出てござる
しぐれへ三日月へ酒買ひに行く
少し酔へり物思ひをれば夕焼けぬ
そうろうとして酔どれはうたう炎天
空に雲なし透かし見る火酒の濃き色よ
たまさかに飲む酒の音さびしかり
月が酒がからだいっぱいのよろこび
月のさやけさ酒は身ぬちをめぐる
椿赤く酔へばますます赤し
つまづいても徳利はこはさない枯草
徳利から徳利へ秋の夜の酒
何もかも捨ててしまはう酒杯の酒がこぼれる
濁酒あほることもふるさとはおまつり
寝酒したしくおいてありました
ひとり雪みる酒のこぼれる
膝に酒のこぼるるに逢ひたうなる
ふる郷ちかく酔うている
ふと酔ひざめの顔があるバケツの水
ぼろ売って酒買うてさみしくもあるか
ほろほろ酔うて木の葉ふる
みんな酔うてシクラメンの赤いの白いの
向き合って知るも知らぬも濁酒を飲む
もう飲むまいカタミの酒盃を撫でている
ゆうぜんとしてほろ酔へば雑草そよぐ
雪ふれば酒買へば酒もあがった
よい宿でどちらも山で前は酒屋
わが旅のさびしさはゆがんださかづき
われあさましく酒をたべつつわれを罵る
アルコールがユウウツがわたしがさまよふ
山口県小郡での托鉢行の様子を山頭火は手記『行乞記』に書いていますが、「朝の山を眺めながら朝酒を味はった。…七時すぎてから地下足袋を穿く、ほろ酔のうれしさである」「明けても酔がさめない、湯にとびこむ、一杯ぐっとひっかける」「途上一杯の酒、それこそまさに甘露」「ことに前は造酒屋だから、飲みすごしたのも無理はなからう」といった具合に酒に浸っており、「時々乞食根性、といふよりも酒飲根性が出て困った」と自らの抑えられない行状を記しています。 由 無
参考:大山澄太『山頭火の手記』、金子兜太『放浪行乞』
『はぐれ雲山頭火』(写真句行)
うしろすがたのしぐれてゆくか
笠へぽつとり椿だった
俳句 淀風庵