喜雨亭に佳き酒にほふ年の暮れ(水原秋桜子)
甘酒の沸々木瓜(ぼけ)は雪深き
蕪村忌や画中酔歩の李太白
鰭酒も春待つ月も琥珀色
酔うたほどでもなくてコップの水をうつくしと思う晩
(荻原井泉水)
ぶどうむらさき写しおるにぶどうの赤き酒をつぐ
盃の酒のかおる会の名は、菊の会とする
地酒なら昼酒ならもう蛙が鳴く
飲めるだけのめたるころのおでんかな(久保田万太郎)
熱燗やかがめたる背にすがる老い
熱燗や状書きさしてとりあへず
夏痩やほのぼの酔へる指の先
秋袷(あわせ)酔ふとしもなく酔ひにけり
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
秋の暮水のようなる酒二合 (村上鬼城)
庵主の酔うて仮寝や春の宵
治聾酒の酔ふほどもなくさめにけり
秋の暮れ水のようなる酒二合
春の夜を皆酔臥しぬ天狗ども (石井露月)
杯をふくみて蟇(ひき)と相見たる
盆燈籠よわが酔ひしれて寝るまでなり(小沢碧童)
おしきせの酒のみつきて秋の暮れ
一酒客酒盗持参の夜長哉
正月やはしらわさびに酒の味
朝酒にしてやきのりの余寒なれ
春さむや庵にとゝのふ酒五合 (西島麦南)
酒熱く寒の蕗の芽たまはりぬ
白酒やなでゝぬぐひし注零(つぎこぼ)し(阿波野青畝)
居酒屋の灯に佇める雪だるま
寒造り渚の如く米沈む (山口誓子)
おでん酒酌むや肝胆相照らす
酒買ひに韋駄天走り時雨沙弥 (川端芽舎)
わたり鳥田舎酌婦の眼の光り (松瀬青々)
美酒あふれ蟹は牡丹の如くなり (渡辺水巴)
秋雨に豪酒の酌婦見たりけり (原石鼎)
大正から昭和にかけての 酒を詠んだ俳句を紹介し
ます。
荻原井泉水は自由律句の大御所で、山頭火や尾崎方哉の師匠にあたります。 由 無
参考:『日本の詩歌』俳句集(中公文庫)
俳句 淀風庵