芭蕉・其角の酒落句
俳聖芭蕉は酒をつつましやかに、
静かに嗜むほうでしたが、第一の弟子とされる其角は奔放
に酒をあおるほうであったため、師匠から書簡で注意を促され
るほどでした。江戸人の其角は44年の人生(1661〜1705年)のほとんどを江戸で過ごしましたが、神社に雨乞いの句を奉納して叶ったり、討ち入り前の赤穂浪士との出会いと句のやりとりが歌舞伎で演じられるなど、巷間話題になる存在でした。
「夕涼みよくぞ男に生れける」は洒落な其角の代表句です。
由 無
参考:永山久夫『酒雑学百科』
花にうき世わが酒白く飯黒し
扇にて酒酌むかげやちる桜
花に酔へり羽織着て刀さす女
酒のみに語らんかかる滝の花
二日酔いものかは花のあるあいだ
酔うて寝ん撫子咲ける石の上
飲みあけて花生にせん二升樽
月花もなくて酒のむひとりかな
をだまきのへそくりかねて酒かはん
椹の実や花なき蝶の世すて酒
夕顔や酔ふて顔出す窓の穴
ほたる見や船頭酔っておぼつかな
朝顔は酒盛しらぬさかりかな
宝井其角
もどかしや雛に対して小盃
内蔵の古酒をねだるや室の梅
酒を妻妻を妾の花見かな
花に酒僧とも侘ん塩ざかな
猿のよる酒家きはめて桜かな
その花にあるきながらや小盃
花主も御酌に花を折る
花盛ふくべふみ見る人もあり
徳利狂人いたはしや花ゆくにこそ
曲水にあの気違は花碗哉
世わすれに我酒かはむ姪がひな
暁の反吐は隣か時鳥
大酒に起きてものうき袷かな
蝸牛酒の肴に這はせけり
酒ほかす舟をうらやむ涼み哉
うち開く酒屋の庭に涼むらむ
かけ出の貝にもてなす新酒哉
足あぶる亭主にとへば新酒哉
酒くさき鼓うちけり今日の月
十五から酒を飲み出て今日の月
小萩ちれますほの小貝小盃
盃や山路の菊と是を干す
草の戸に日暮れてくれし菊の酒
川舟やよい茶よい酒よい月夜
かぜ吹かぬ秋の日瓶に酒なき日
升買って分別かわる月見かな
月の宿亭主盃持ちいでよ
盃のまはる間おそき月いでて
雪や砂むまより落ちて酒の酔
雪をまつ上戸の顔やいなびかり
酒飲めばいとど寝られぬ夜の雪
たのむぞよ寝酒なき夜の紙衾
千代をふる天のてんつるあられ酒
松尾芭蕉
蕪村筆の芭蕉翁
ますほ=赤い
酒は濁酒、飯は玄米という貧しさ
椹=くわ
俳句 淀風庵
名月や居酒飲まんと頬かぶり
闇の夜は吉原ばかり月夜かな
鹿の音をみちの酒屋にきくほどに
菊の酒葡萄のからにしたみたり
紅葉には誰が教へけむ酒の燗
酒買ひに行くか雨夜の雁一つ
冷や酒やはしりの下の石畳
時雨くる酔ひや残りて村時雨
手をあてて外から見たる酒の燗
初雪や十になる子の酒の燗
朝こみや月雪薄き酒の味
到来をさあと云ふまま酒にして
詩あきんど年を貪る酒債かな
立つ年の頭を剃るは酒つけて
富士の雪蠅は酒屋に残りけり
酒熱き耳につきたるさざめごと
酒くさき布団剥ぎけり霜の朝
酒ゆえと病を悟る師走哉
琴を焼て水鶏を煮る夜酒さびし
いざくまん年の酒屋の上だまり
酒飯の飲酒は如何に寒念仏