昔は新米で造ったどぶろくを秋に飲んだところから、「新酒」は秋の季語です。なお、現在の清酒は2月頃から出回るものが新酒です。
新酒はボジョーレヌーボーみたいなもんですから、かつての時代における俳句には、待ちかねた気持が昂揚している様子が伺えます。
由 無
四季折々の酒句(秋)T
・憂あり新酒の酔に託すべく(夏目漱石)
・ある時は新酒に酔て悔多き
・御名残の新酒とならば戴かん
・貧農の足よろよろと新酒かな(飯田蛇笏)
・生きてあることのうれしき新酒かな(吉井勇)
・人が酔ふ新酒に遠くゐたりけり(加藤楸邨)
・男とは佳けれ出雲のあらばしり(鈴木鷹夫)
・新酒よし蜂の子も可ならずとせず(富安風生)
・旅人となりにけるより新酒かな(才麿)
・松風に新酒を澄ます山路かな(支考)
・我もらじ新酒は人の醒めやすき(嵐雪)
・風に名のついて吹くより新酒かな(園女)
・舌触り粗き新酒の小気味よし(三溝沙美)
・目しひ目をしばたたき酔ふ新酒かな(阿波野青畝)
・明き灯に新酒の酔の発しけり(日野草城)
・古酒新酒みちのくの人と酌み交す(高野素十)
・肘張りて新酒をかばふかに飲むよ(中村草田男)
・迸る音の確や新走(富田のぼる)
・ニ三匹馬繋ぎたる新酒かな(正岡子規)
・二三子の携へ来る新酒かな(高浜虚子)
・ニ三匹人くらがりに飲む新酒かな(村上鬼城)
・鳴る音にまず心澄む新酒かな(石川淳)
・新走り出雲の闇を密にして(加藤三七子)
・父が酔ひ家の新酒のうれしさに(召波)
・風をあるいてきて新酒いっぱい(山頭火)
・よく飲まば価はとらじ今年酒(大祗)
・八兵衛が破顔微笑やことし酒(一茶)
・行く秋を唄で送るや新酒屋
・かけ出の貝にもてなす新酒哉(其角)
・足あぶる亭主にとへば新酒哉
・鬼貫や新酒の中の貧に処す(蕪村)
・升飲の値は取らぬ新酒哉
・早稲酒や難波長者の笑ひ声(井上井月)
・早稲酒や店も勝手も人だらけ
・早稲酒や自慢せぬまに誉められる
・早稲酒や人の噂も其の当座
・早稲酒に誉めそやされつ旅角力
・善しあしは客の儘なり今年酒
・杉の葉も自慢ごころやことし酒
・葷酒山門にいるを許さず紅葉哉(寺田寅彦)
・松の葉も紅葉になりて新酒哉(諸九)
・母と来て京に一夜の紅葉酒(岩井久美恵)
・真先に僧の染まりし紅葉酒(鈴木鷹夫)
・悦びに戦く老の温め酒(高浜虚子)
・ニ三杯温め酒に色の浜
・温め酒雀のこゑもなくなりぬ(石田波郷)
・火美し酒美しやあたためむ(山口青邨)
・いつの世も流離は暗し温め酒(福田甲子)
・温め酒母の手紙も来ずなりぬ(細川加賀)
・妻とくむあたため酒も亦たのし(景山筍吉)
新酒
俳句 淀風庵
温め酒
紅葉酒