酒醒て梅白き夜の冴返る
酒に女御意に召さずば花に月
酒を呼んで酔はず明けたり今朝の春
五月雨や小袖をほどく酒のしみ
飲む事一斗白菊折って舞はん哉
憂ひあらば此酒に酔へ菊の主
黄菊白菊酒中の天地貧ならず
菊の香や晋の高士は酒が好き ※
兵ものに酒ふるまはん菊の花
お立ちやるかお立ちやれ新酒菊の花
ある時は新酒に酔て悔多き
御名残の新酒とならば戴かん
憂いあり新酒の酔に托すべく
酔て叩く門や師走の月の影
酒少し徳利の底に夜寒哉
酒少し参りて寝たる夜寒哉
夏目漱石は英語の教師として松山に住んだ頃、
同じ歳で友人の正岡子規の影響で句作に励んでいます。
生涯に2千5百をこえる句を詠んでいますが、そのなかから酒の句を探しました。漱石は桜の季節よりも秋の新酒や菊を愛でた酒句を好んで詠っているようですが、これは彼の気風 を反映しているのでしょうか。 由 無
参考:大木惇夫編『酒の詩歌十二ヶ月』
坪内稔典『俳人漱石』(岩波新書)
俳句 淀風庵
夏目漱石
1867年(慶応3年)生まれで、1905年『我輩は猫である』を発表。1916年49歳で死去。
※ 「晋の高士」とは中国の東晋時代(4〜5世紀 )の代表的詩人、陶淵明のことです。
淵明は「飲酒20首」の中で菊酒のことを詠っており、これにちなんだ江戸時代の俳句、川柳も遺されています。