プーシキンは皇帝による専制政治が続く19世紀前半において活躍したロシヤの詩人です。その作品に表された喜びや悲しみや理想は、民衆の共感を呼び起こし、国民詩人として以降のツルゲーネフやトルストイなどの文学者に大きな影響を与え、現在も国民に最も敬愛されている詩人です。
 紹介します酒の詩はは彼が最初の流刑に処された25歳当時のもので、杯を満たして、努めて陽気に、意気盛んに明るい未来を謳いあげているようです。お酒とは関係ありませんが、併せて、ロマンあふれる詩 「冬の朝」をご覧ください。
 なお、プーシキンは先に紹介した英国の詩人・バイロンと同時代人であり、古い体制を批判して逆境を招き30代後半で亡くなっている点が奇しくも共通しています。                 由 無
       参考:金子幸彦訳『プーシキン詩集』(岩波文庫)
プーシキンのバッカス歌
バッカスの歌
喜びの声はなぜにしずまる?
バッカスの歌よ 鳴りひびけ!
こころやさしい乙女たち
乙女のころにわれらを愛した
若き妻たちに栄えあれ!
さかずきをみたせ あふれるまでに!
濃い酒の底へ音たかく
愛のゆびわを投げいれよ!
さかずきをとれ さかずきをあげよ!
ミューズ万歳 理性万歳!
  ・・・・・・



   アレクサンドル・プーシキン  
1799〜1837年。モスクワの貴族の家に生まれ、ナポレオン軍との戦いに勝利し、ロシヤの民族的な昂揚が高まり、青年貴族による専制制への反乱が起こるなかで、それらの運動を支持する詩を書く。シベリヤへの流刑を解かれた後も、皇帝へ反骨精神を示すも、決闘で死に至る。
冬のゆうべ
あらしは空を霧でつつみ
雪のうずをまきあげる。
あらしはけもののように吠え
おさな児のように泣く。
ふるびた屋根のわらを
かき鳴らすかと思えば
ゆき暮れた旅人のように
窓をうちたたく。
  ***
酒をくもう わがみじめな青春の
やさしい道づれよ 杯はどこ?
心のうさを忘れよう。
飲めば心も浮き立つだろう。
冬の朝
凍てつく寒さ 陽のひかり 青い空!
かわゆい友よ ねむっているの?――
いとしいひとよ 起きなさい。
君のやさしい目をあけて
北の夜空の星のように
北のオーロラを迎えなさい!
  ***
朝のかがやく雪の上で
いとしい友よ きおいたつ
馬の走りに身をゆだねよう。
ひとの通わぬあの原や
いつとも知れず裸になったあの森や
なつかしい岸のほとりをおとずれよう。


サンクト・ペテルブルク郊外ツァールスコエ・セローにあるプーシキン像
写真提供:「冬の朝」を原語で朗読されるツチダコウヘイさん ↓
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わたしはあなたを恋していました。
恋はまだわたしの心のおくで消えはててはいないのでしょう。
けれどもわたしは願う それがもはやあなたの胸をかき乱さないように。
わたしはあなたにどんなことでも悲しみをあたえることを望みません。
わたしはあなたを恋していました ものおじしつつ 疑いもだえつつ ことばもなく のぞみもいだかず かくも
誠をこめた やさしい心で。
いまわたしは祈る あなたがほかの人から同じ心で恋されることを。
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