ノヴァースは18世紀末のドイツ初期浪漫派詩人です。彼は「わたあしたちは万有のなかを旅することを、あれこれと夢み、考える。けれども万有はただわたしたちの内部にあるのではなかろうか。―永遠の世界とその無限の広さ、過去と未来は、われわれの内部にあるのであって、他のどこにもあるのではない」と述べていて、愛と死への憧れを謳っている特異な存在です。 由 無
参考:村上文昭編『ワイン頌詩集』
『ドイツ文学案内』(岩波文庫)
ノヴァーリス葡萄酒の歌
われらに天国をもたらしたまふ
酒神は緑の山に生れぬ
日はその神を愛で選ぐり
光を身ぬちにしみ通らせぬ
弥生たのしく花は身ごもり
柔き胎やをらふくらみ
秋の木の実のかがやくとき
黄色の稚児は生れ出でぬ
☆ ☆ ☆
揺籠の暗き中より
晶玉の衣まとひて出でぬ
黙せる親和の標の八重薔薇
意味深く手にささげ持てり
その行くところあたりには
帰衣者喜び集まりて
たのしき言葉口ごもりて
愛と感謝を捧げつれ
酒神は千條の光と散りて
内なる生命を世に送れば
「愛」はその盃を啜りて
永久に酒神の伴侶とはなりぬ
黄金の御代の精なる酒神は
昔より詩人を庇ひ
詩人は愛でたきうま酒の徳を
酔ひたる歌にうたひそやしぬ
酒神は詩人の忠実を嘉(よみ)し
なべての美しき唇を許し与へ
婦のすべてそを否むなと
神は詩人をして世に告げしめぬ
ノヴァーリス
1772年〜1801年。ドイツの代表的な印象派詩人。
本名はフリードリヒ・フォン・ハルデンベルク。婚約者のゾフィーの死はノヴァーリスの詩 に影響を与え、詩集『夜によせる讃歌』で死への憧れを謳う。29歳で肺患により夭逝。
クリングスオールの葡萄酒の歌
―『青い花』より―
Novalis
小牧健夫訳