19世紀の前半に活躍したドイツの叙情詩人、ハイネもぶどう酒を愛し、詠作しています。ここでは酒場を舞台にした詩を二編掲げました。ぶどう酒が醸し出す小宇宙を讃歌したテンションの高い詩といえます。
                              由 無
       参考:村上文昭編『ワイン頌詩集』(中央書院)
ハイネのぶどう酒詩
港にて 
無事に港に着いた男は
海も嵐も後にふり捨て
いま 安らかにぬくぬくと腰をおろす
ブレーメン市役所のりっぱな地下酒場で

このぶどう酒杯に 世界がいかにも気持よく
微笑ましくうつっている
波うつ小宇宙が 渇ききった心へ
いとも明るく 流れこんでくる
...
あまえは このブレーメン市役所の地下酒場
の薔薇だ
この薔薇こそは薔薇のなかの薔薇
年をかさねるごとに愛らしく咲く花
そのすばらしい香りに おれは驚喜し
感動し 恍惚とした
ブレーメン市役所の地下酒場のおやじが
おれを おれの髪をしっかり掴まなかったら
おれは ひっくりかえったろう
...
おお 感心なブレーメン市役所の酒場のおやじよ
見たまえ 家々の屋根に
天子がすわり 酔っぱらって歌っているぞ
あの上に炎える陽は
酔っぱらいの赤鼻だぞ
世界精神の鼻
世界精神の鼻の周囲を
酔っぱらった世界中がまわっている
...
井上正蔵訳
Christian Johann Heinrich Heine
ゴーデスベルグの酒場にて 
のどがかわく。西空の
夕日を丸呑みしたように。
おやじ、頼むよ、さあ一本、
自慢の酒を今すぐに!

ぐっと一杯、のどを越す
ぶどうの精は世の宝、
さすがは見事その力、
のどの日焼けもどこへやら。
おやじ、頼むよ、もう一本、
前一本は飲みだめし、
これからいよいよ本調子。
おやじの酒はたぐいなし。
……
忘れられよか この色を!
この色にしく色はなく、
コップのなかを眺めては
ひとり飲む酒、思い湧く。
...
万足 卓訳
   歌の翼
作詩;ハイネ
作曲:メンデルスゾーン

歌の翼を 借りていこう
望みあふれる 希望の国へ
花は咲きこぼれ 鳥は歌い
見渡す空は 青く澄みて
見渡す空は 青く澄みて


  ハインリッヒ・ハイネ 
1797〜1856年、ドイツのデュッセルドルフ生まれの詩人、作家、ジャーナリスト 。
「歌のつばさに」や「ローレライ」など、ハイネの詩は多くの作曲家によって取り上げられている。
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