―そは可能なり、わが子よ、汝もしそれに値せんと希わば、
しかり、見よ、そはここにあり。
花咲ける百合へ翅び行く蜂のごとく
汝がよりどころなき無知をして
わが宗門のひらかれし腕の方へと行かしめよ。
わが耳の近くに来たれ。さてそこに注げ、思いきりかくさざる
卑下の心を。
矜も捨て飾も捨てすべてをわれに捧げよ。
さて遠慮なく心安くわが食卓にきたれ、
われそこに汝に饗せん、美味なる食を
天使欲すれば、みずから来たりてまた席にあらん。
かくて汝は飲まん、変らざる「葡萄酒」を、
その酒の力、その酒の甘さ、その酒のよろしさ、
汝が血のうちに不死の生命をはぐくまん。
ヴェルレーヌ葡萄酒詩
ポール・ヴェルレーヌは詩における音楽的要素を重視し、マラルメとともに19世紀末フランスの象徴派の巨匠です。しかし、酒と女に奔放不埒な生活をおくっており、天才少年ランボーとの同棲、ベルギーと英国ヘ彼と放浪生活も。この頃詠った「ちまたに雨の降るごとく、わが心にも涙ふる」の詩(『言葉なき恋歌』)はよく知られています。
1873年ランボーに発砲し投獄され、この獄中カトリックに改宗。このときの悔恨の情と敬虔な気持ちを歌った詩が『英知(知恵)』(1881)です。 由 無
参考:村上文昭編『ワイン頌詩集』
鈴木信太郎訳『ヴェルレェヌ詩集』
知恵―その七― (堀口大学訳)
ワルクール(堀口大學訳)
葡萄のみのり (鈴木信太郎訳)
ポール・ヴェルレーヌ
1844〜1896 フランスの詩人。酒と女と男色、神と祈りと叛逆、悔恨の人生、デカダンと称せられるにふさわしい詩人で、約840篇の詩を創作している。
Paul Verlaine
煉瓦と瓦
やあ、素晴らしい!
しばしの隠れ家。
ホップと葡萄
いま葉のさかり花ざかり
飲み助どもには
嬉しいテント!
陽気で明るいひなびた酒場
泡立つビールとワイワイ騒ぎ
喫煙者にも
気に入るメード!
駅には近いし
道は広いし邪魔はなし
風来坊には
打ってつけ!
思ひ出の空虚なる時
頭の中に歌う秘言、
聴け、そは、わが血の歌ふ声…
はるかなる幽けき、音楽。
霊魂の飛び立ちし時、
聴け、そは、わが血の咽び泣き、
曽て聞きたるためしなく
いくほどもなく 黙す声。
赤き葡萄の血のうから、
かぐろき脈の 葡萄酒よ、
おお酒、おお血、神と崇めむ。
歌へ、泣け、思ひ出を逐ひ
霊魂を遣らひて、暗闇に
哀れなるわが脊椎を呪縛せよ。