海行かば水漬くかばね 山行かば草むすかばね
大君の辺にこそ死なめ  かえりみはせじ
吟醸抄 
大伴旅人・酒を讃むる歌
 万葉歌人の中で第一の酒好きと言われる旅人は、天智天皇の御世(665年)に生まれ、六十三歳の晩年に大宰帥として僻地・筑前に赴任。そのいかにも左遷されたとの思いの時期に詠んだのが「酒を讃むる歌十三首」です。中央では藤原氏が政治的陰謀に明け暮れ、実権を握るに至っており、歌の内容はその一族の賢しさを責めつつ、酒に浸って悠然たらんとする心境が伝わってきます。
 併せて、妹の坂上郎女(いらつめ)の和歌と妾の子であり万葉集の編者と称される大伴家持(やかもち)の有名な天皇崇仰の歌を載せております。                              由 無
参考文献:佐佐木信綱編『新訓万葉集』 和歌森太郎『酒が語る日本史』
      リービ英雄『英語で読む万葉集』
験なき物を思はずは一坏(ひとつき)の 濁れる酒を飲むべくあるらし

酒の名を聖(ひじり)と負ほせし古(いにしへ)の 大き聖の言の宣(よろ)しさ

古の七の賢(さか)しき人たちも 欲(ほ)りせし物は酒にしあるらし
What the Seven Wise Men of ancient times wanted,it seems
was wine.
賢しみと物言ふよりは酒飲みて 酔(ゑ)ひ泣きするしまさりたるらし
Rather than making pronouncement with an air of wisdom,
it's better to down the wine and sob drunker tears.
言はむすべ為むすべ知らず極りて 貴(たふと)き物は酒にしあるらし

中々に人とあらずは酒壺に なりてしかも酒に染(し)みなむ

あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ 人をよく見ば猿にかも似む
How ugly those men who,with airs of wisdom,refuse to drink wine.
Take a good look,and they resemble apes.
価なき宝といふとも一坏(ひとつき)の 濁れる酒に豈(あに)まさめやも

夜光る玉といふとも酒飲みて 心を遣(や)るに豈しかめやも

世間(よのなか)の遊びの道に楽しきは 酔ひ泣きするにあるべかるらし

この世にし楽しくあらば来む世には 虫に鳥にも我はなりなむ

生まるれば遂にも死ぬるものにあれば この世なる間は楽しくをあらな

黙然(もだ)居りて賢しらするは酒飲みて 酔ひ泣するになほ及(し)かずけり
大伴坂上郎女
酒坏に梅の花浮かべ念ふどち 飲みて後には散りぬともよ
大伴 家持
 この歌は昭和12年、「海ゆかば」という国民歌謡として曲がつけられ、神宮競技場における学徒出陣の壮行会でも奏でられるなど太平洋戦争末期の玉砕を思い浮かべます。
 かつて、中大兄皇子(天智天皇)が百済を救援すべく朝鮮に出兵し、白村江に攻め込んだ倭国の軍船が逆に唐・新羅連合軍に殲滅されましたが、その悲しみを家持が詠ったものかと思っていましたが、実は、武門で天皇に仕える家柄の家持が祝い歌として天皇への忠勇の心を詠ったものでした。
創作句集 
酒の詩歌句集目次
俳句 淀風庵
大伴旅人・酒を讃むる歌
良寛ほろ酔い歌
中世の酒宴歌謡
一休の風狂酒詩
古事記・酒楽の歌
田植え酒歌
狂言酒歌謡
良寛ほろ酔い詩
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