良寛ほろ酔い詩
良寛禅師は、飢餓に庶民が喘いでいた寛政年間に信州、江戸、近畿一円や中国、九州などを行雲流水のごとく乞食遊行しながら、詩歌も多く詠っています。
漢詩では讃仏や人生訓の詩が多く詠まれています。ここでは少ない讃酒の詩の中から三篇を紹介します。二つは片田舎の老農夫に親しく酒を振舞われたのどかな情景を詠んだものであり、もう一つは晩年に弟と酌み交わした場面を詠ったものです。飄々陶酔たる良寛の姿が目に浮かびますね。 由 無
参考:大島花束他訳『良寛詩集』(岩波文庫)
水上勉『良寛』(中公文庫)
老農と酌む五言絶句(一)
行々到田舎 行き行きて田舎に到る
田舎秋水(辺) 田舎秋水のほとり
寒天向晩霽 寒天晩に向ってはれ
烏雀翔林飛 鳥雀は林に翔って飛ぶ。
老農言帰来 老農ここに帰り来り
見我若旧知 我を見る旧知のごとし。
呼童酌濁酒 童を呼んで濁酒を酌み
蒸黍更勧之 きびを蒸して更に之を勧む。
師不厭淡薄 師淡薄を厭わずば
数言訪茅茨 しばしばここに茅茨を訪へと。
老農と酌む五言絶句(二)
孟夏芒種節 孟夏芒種の節
杖錫獨往還 錫を杖いて独り往還す。
野老忽見我 野老たちまち我を見て
率我共成歓 我を率いて共に歓を成す。
蘆 聊爲蓆 蘆はい(あしのむしろ)聊か蓆を為し
桐葉以充盤 桐葉以って盤に充つ。
野酌数行後 野酌数行の後
陶然枕畔眠 陶然畔を枕として眠る。
弟・由之と酒を飲み甚だ楽し
兄弟相逢処 兄弟相逢処
共是白眉垂 共に是れ白眉垂る。
且喜太平世 しばらく太平の世を喜び
日々酔如痴 日々酔うて痴の如し。
(あばら屋)
(詩題は編者が勝手に付けました)
富川潤一画 「冬夜五合庵」の一部
俳句 淀風庵