吟醸抄 
吉井勇・酒ほがひ
 吉井の処女歌集『酒ほがひ』は20歳の頃に発表されたものですが、ここには、住居を転転とする放浪的な生活の頃や、52歳(昭和12年)で再婚し京都に移り住んだ後に詠まれた歌集『遠天』に収録された歌も紹介します。若き頃を懐かしむ風情もみられます。 由 無
        参考:『吉井勇の歌』(現在教養文庫) 
歌集「故園」より(大正13年〜昭和5年作)

寂しみをひとりかこちて酒酌みぬ祗園に来れど知るひともなく
酒中花を売る露肆もそのままにありて寂しや祗園まゐりも
死を思ひ寝ざりき酒も寒かりき高野へのぼるまへの夜にして
わがまへの杯のみが知るといふ秘めごとなればあかしかねつも
杯をまへに置きつつおもへらく酒をとどむる白き手もがな
酔へどなほ心うれひてなぐさまず馬楽のごとく死にや果つべき
今日もまた酒に酔へりとおもへるやおのが涙に酔へる男を
洛陽の酒徒と呼ばれてありし日もひそかに涙ながす子なりし
酒にがしかつて寂しくあぢはひし恋の苦さやここにまじれる



大文字の送り火燃ゆといふ声す酒はや尽くと寂みし居れば
酒酌まで日を経月を経あるほどに骨もなるべうなりにたらずや
夜ふかく憤り酒酌みたるをいまさら悔ゆとわれや言はなく
憤り酒酌むさへ稀になりけり紫朝亡き世に生くる身あはれ
酒のなき冬を楽しとするこころ夜ごと狭庭の石に親しむ
昨日かも酔ふを弱しとおとしめて残んの酒を石に棄てしは




酒にがし破れし恋のあぢはひに似ると云ひつつなほ酔へるひと
杯はいまはとどむるひともなしこの春寂し酒は汲めども
末法の世を嘆きわび今日もまたいきどほろしく酒に走るも
さかづきの酒冷え君の心冷え酔ひがたきかな京の春寒
緑酒行それはむかしの旅の歌今はた何の歌と名づけむ
京さむし鐘の音さへ氷るやと云ひつつ冷えし酒をすすりぬ
風さむし吾子やいかにと思ひつつ煮ゆるを待ちぬ炉の上の酒
鳴り出でし雪雷を聴きながらきさらぎ蟹の甲に酒煮る
夜半に起きてむかしの華奢を思ひつつ乾ざかな焼く酒を酌むべう
一合の酒を楽しと思ひて酌む島の旅籠の夕がれひかな
いささかは国を憂ふるおもひありて年祝ぎ酒もつつしみて酌む
酒に酔ひ世をののしりてあるもよしとまれかくまれ年はゆくらむ
杯のなかに地獄はありきとよわれの堕つべき孤独地獄は
われはぢておのれを見たるここちしぬ酔極まりて涙わくとき
牧水も逝きて今年の秋さびし旅にゆけども酒に酔へども
創作句集 
酒の詩歌句集目次
(3)
歌集「遠天」より(昭和14年〜16年洛北にて)
 
俳句 淀風庵
若山牧水讃酒歌(1〜3)
啄木・哀しき酒歌
佐佐木幸綱・俵万智酒歌
吉井勇・酒ほがひ(1・2)
近現代の酒短歌集
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酒歌つれづれよしな記
坂口謹一郎先生の酒造讃歌
「鸚鵡杯」他の歌集より