いよいよ、酒仙と称された李白の酒讃詩です。「李白 酒一斗 詩百篇」は、杜甫が同時代の先達である李白を評した言葉で、李白は大いに酒を飲み、飲むほどに詩を書くという意味です。まさに“文酒両道”の大人ですね。なお、「春日酔起言志」の英文訳を添えています。
なお、この時代の酒は米を原料とした醸造の濁酒で、アルコール度は10%にもならず、少し割り引いて考える必要があります。由 無
参考:村上哲見『漢詩の名句・名吟』
陳舜臣『唐詩新選』
酒仙李白の詩
月下独酌
花 間 一 壷 酒 花間 一壷の酒
独 酌 無 相 親 独り酌みて 相親しむ無し
挙 杯 邀 明 月 杯を挙げて 明月を迎え
対 影 成 三 人 影に対して三人と成る
月 既 不 解 飲 月 既に飲むを解せず
影 徒 随 我 身 影 徒らに我が身に随う
暫 伴 月 将 影 暫く月と影とを伴いて
行 楽 須 及 春 行楽 須らく春に及ぶべし
我 歌 月 徘 徊 我歌えば 月徘徊し
我 舞 影 零 乱 我舞えば 影零乱す
醒 時 同 交 歓 醒むる時 同(とも)に交歓し
酔 後 各 分 散 酔うて後は各々分散す
永 結 無 情 遊 永しえに無情の遊を結び
相 期 遥 雲 漢 相期す遥かなる雲漢(あまのかわ)に
春日酔起言志
処 世 若 大 夢 世におるは大いなる夢のごとし
胡 為 労 其 生 なんすれぞ其の生を労するや
所 以 終 日 酔 このゆえに終日酔い
頽 然 臥 前 楹 頽然として前楹(はしら)に臥す
覚 来 眄 庭 前 覚め来って庭前を眺むれば
一 鳥 花 間 鳴 一鳥 花の間に鳴く
借 問 此 何 時 借問す 此れ何れの時ぞと
春 風 語 流 鶯 春風 流鶯に語る
感 之 欲 嘆 息 之に感じて嘆息せんと欲し
対 酒 還 自 傾 酒に対してまた自ら傾く
浩 歌 待 明 月 浩歌して明月を待ち
曲 尽 已 忘 情 曲尽きて已に情を忘る
李白にちなむ江戸川柳・狂歌
李太白一合ずつに詩を作り
李太白近所の酒屋かりだらけ
四日めにあき樽を売る李太白
劉白倫や李太白、酒をのまねばただの人
李白にちなむ短歌
月下独酌一杯一杯復一杯
はるけき李白相期さんかな(幸綱)
杜甫「飲中八歌仙」より
李白一斗詩百篇
長安市上酒家眠
天子呼来不上船
自称臣是酒中仙
グスタフ・マーラー作曲『大地の歌』の歌曲の歌詞は李白の詩をもとに作られているそうで、第五楽章「春に酔える者」の歌詞は上記の李白の詩にもとづいています。
杜甫が李白のことを詠った詩
A STATEMENT OF RESOLUTIONS AFTER
BEING DRUNK ON A SPRING DAY
BY LI T'AI-PO
Translation by Florence Ayscough & Amy Lowell
This time of ours
Is like a great, confused dream.
Why should one spend one 's life in toil?
Thinking this, I have been drunk all day.
I fell down and lay prone by the pillars in front of house;
When I woke up, gazed for a long time
At the countryard before me.
A bird sings among the flowers.
May I ask what season this is?
Spring wind,
The bright oriole of the water-flowing flight calls.
My feelings make me want to sigh.
The wine is still here, I will throw back my head and drink.
I sing splendidly,
I wait for the bright moon.
Already, by the end of the song, I have forgotten my feelings.