吟醸抄 
上・下戸の狂歌数え歌
 天明の世に花開いた狂歌には酒の歌が多く、庶民が酒を楽しめるよき時代であったことが伺えるのであります。ついには、やおら上戸の狂歌師(沸斉)が下戸の寂しさを一より十の数え歌でもって嘆いてみせますれば、これに大いに憤慨した下戸の狂歌師(卜養)、酒飲みの悪癖をあげつらう狂歌を作ってたちまち応戦し、まさに酒を巡る狂歌合戦が展開されるのでありま〜す。
 なお、同時代の愛飲家である狂歌師・蜀山人が守りうるべきもなき禁酒法令を作っておりますので、参考に載せましょう。由 無
        参考:篠原文雄『日本酒仙伝』
 
 
一斗のむ人だにあるを杯の
   作法も知らぬ下戸のつたなさ

二間に酒の飲まれぬいはれなし
   神酒を嫌へる神のなければ

三三の九度の固めの始まりは
   神代も今も酒にこそあれ

四海波目出度などと歌へども
   不吉に見ゆるげ孤の顔付

五節句は尚あっさりと飲むうちに
   青くしぼめる下戸のはかなさ

六かしくねじ返りたる上戸には
   うしろを見せる下戸ぞ多かる

七宝の杯は世に多かるに
   名だにも聞かぬ玉の菓子盆

八景の中に入りたる酒はやし
   餅屋の店は絵にもかかれず

公事和談皆何事も酒の世に
   わびてや独り下戸のさびしさ

十分の上にも酒は飲めもせん
   餅の過ぎたる後は食傷
一生を誤る酒のとがぞとは
   知らで好める人ぞはかなき

二ぎやかに酒宴のあとは袖の梅
   さます小間物けんか口論

三三に下戸を叱れる酒のみは
   酒にのまれて果す身上

四かるべき其人がらも杯に
   向へば変わる人の面影

五無理とは口に言へど嬉しさを
   包みかねた意地の汚さ

六でなき人ときいては大方に
   酒で身をうつたぐひ多さよ

七宝も飯もなくしては茶碗酒
   見るもうたてのチロリ燗鍋

八景の中に入りたる酒ばやし
   喰い倒れは絵にもかかれず

九りかへし酔のまはりて後先の
   下らぬ事を賎のおだまき

十分の上に跡ひく酒のみは
   度重なれば後は内損
下戸に対する数え歌
蜀山人の禁酒法令

一. 酒はのむべし飲むべからず
一. 節句祝儀には飲む
一. 珍客あれば飲む
一. 肴あれば飲む
一. 月雪花の興あれば飲む
一. 二日酔の醒を解くには飲む
一. 此外群飲俟遊長夜の宴
   終日の宴を禁ず
 わが禁酒破れ衣となりにけり
 さしてもらはう、ついでもらはう
創作句集 
酒の詩歌句集目次
上戸に対する数え歌
禁を破った時の歌
菓子と酒の戦い
俳句 淀風庵
酔いどれ江戸川柳
サラリーマン酒川柳
蜀山人の酔狂歌
酒色江戸川柳
川上三太郎の酒川柳
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上・下戸の狂歌数え歌
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