吟醸抄 
中世朝鮮の酒詩
 時の武臣政治を批判して田舎に身を置いた(リ・ギュボ、1168-1241年 高麗)の、これぞまさに悟りの陶酔詩です。
次いで黄喜(1365〜1452年)の酒詩です。彼は宰相の地位にもありました。引退して田園で悠々自適の生活の頃に詠ったものです。
 最後に李朝の官吏である鄭K(チョンチョル、1536〜1593年)の酒を主題にした「将進酒歌」を紹介します。豊臣秀吉と同年齢で、軍を率いて秀吉軍と戦っています。                    由 無

     参考:『朝鮮の詩ごころ』(講談社学術文庫)
                              

 
「明日又作」
病時猶未剛辞酒  病になってもまだ酒をやめることはない
死日方知始放觴  死んだときにはじめて盃を投げ捨てるのだ
醒在人間何有味  酔ってないときの世間は何の面白みがあるのか
酔帰天上信為良  酔っぱらって天国に帰れば何か良いことがあると信じて         いるのだから


「酔書示文長老」 酔って長老に文を示す
一盃美酒如丹液 一杯の美酒は不老不死の薬のごとく
坐使衰顔作少年  この衰えた顔をたちまち少年の顔に変えてしまう
若向新豊長酔倒  もし飲み過ぎて倒れてしまうようなことがあれば
人間何日不神仙  人間世界が神仙の世界にはなるのはいつのことか

 
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棗(なつめ)の実赤く染みたる谷間に 栗の実落ちて
稲刈りとりし株の根に ささ蟹の多に這い出づ
酒ぞ 今は醸れし 篩売り来たれば などて飲まざらん
  *篩(ふるい)=酒を濾す道具


 
 「将進酒歌」
飲まんかな 飲まんかな 一杯また一杯
華を手折りて算をおき いついつまでも 飲まんかな
この身死しては何かある
「背負い子を柩に 藁 筵 かぶせくくりて野辺送り
それもまたよし」「流蘇宝帳 贅を尽せる柩ひき
万人の泣きて従う大葬列 それもまたよし」
さわれ 薄 木賊 柏白楊生い茂る墓場に行かば
訪うは 黄色き日 白き月 しょぼたれ雨 ばた雪
つむじ風のたぐいのみ そが時に 盃を勧むる人の
あるべきや
まして 年古る墓の上に 猿うそぶく日とならば
悔ゆるとても術なけん


 
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