重ねて、
「食フヤ食ハズニ死ンデイッタ多クノ尊ヒ戦没犠牲者ノ鎮魂ノタメニ祖国ノ珍重ナル珍味、珍肴、珍品ヲ奉ゲヨ」
と神らしからぬ頓珍漢な珍説を沈重に陳ずる。  

 陳老、ニコチンで黄ばんだ歯など気にせず「陳謝(チンシャ)、今天(チンテン)、清一色(チンイーソー)、請進(チンチン)、請給我酒(チンケイウオチュウ)…」
と、チンプンカンプンな中国語で口上を発したかと思えば、英語もどきチングリッシュ?で
「キッチン、カロチン、ルーチン、ヨーチン、ワクチン、ギロチン、ガチンコ、チンチンカモカモ、チンチロリン、ナイチンゲールがナイスピッチング…」
と、御霊の憑依したがごとく、ちん尽くしの言葉を並べるも、そのような供物を買う金のあろうはずがない、と神前に深く頭を垂れるのであった。

 大明神宣う、
「ソレハ不憫ジャノ、疱瘡ナラ治シモシヨウガ、カネノ切レ目ガ縁ノ切レ目ジャ、去レ」と、そっけなく、
「ソレニツケテモ平安ノ代ノ栄華ナル、コンチキチンノ祗園会、イト偲バルルコトヨ。
栄枯盛衰世ノ習ヒ、オゴレル人モ久シカラズ唯春ノ夜ノ夢ノゴトシ」
「我ナクモ行ク末守レアシタ草 ハモスル人ノアランカギリハ」
為朝の辞世の句を詠んで嘆く。
(註)アシタ草:明日葉、はもする:食もする

蝉時雨のなか思いがけぬ闖入者と大明神とのやりとりを終始、沈思 沈着な様子で覗っていたのが拝殿前に鎮座する狛犬であったが、この椿事にやおら沈黙を破り、
「やいやい、珍獣の類がなにをチンタラ、チンケなことをぬかしおるか、世間の格差は広がり庶民の暮らしの浮沈はなはだしく、年寄りへの扶助は沈滞している有様、神をも畏れぬ悪徳、悪事、悪行や拝金の横行、世が乱れるにつれ度重なる大地震、豪雨、極暑、はたまた地球の温暖化とか申す天変地異。地盤沈下により、日本沈没の恐れさえあるこの時世において、老いぼれと似て非なる狆との珍道中で御前を穢し、年甲斐もなく命乞いするとは呆れたことよ、えい見苦しい、人生五十年、犬生十年で十分よ、少子高齢化の時世、未練がましい、四苦八苦を速やかに滅せよ…」
云々悪口、冗舌きわまりない。
 
 ―ところで、現在の犬の平均寿命は12歳であり、10年前に比べ3、4年延びているとはペット業界の調べである。―

意気消沈した陳老、ち〜んと鼻をかむと、
「ああ、神にも見放され、犬神もどきも馬鹿にしくさる、雪隠詰めとはこのこと、行き暮れてここが思案のなんとかか、大慈大悲の御心はどこにあるんや」
と叫び、
「浪速の事も、夢のまた夢…」「旅に病みて夢は枯野をかけめぐる」「願はくば 桜の下にて 春死なん…」
なんて季節外れな先人の辞世の歌を低く謡うや一物を取り出し、為朝の腰掛石とやらに小便をかけた。しかしその勢いは、前立腺の衰えのせいか、チンチンチロリ、あまりにもしょぼくれたもので憐れなるが、薮蚊に刺された腕をしきりに掻くのであった。(続く)
                       


 
 




 

                 
俳句 淀風庵
創作句集 
創作詩集りべーら
淀風庵へのお便り
酒の詩歌句集
総目次
酒を詠んだ詩歌人の系譜
欧州
中東
中国
俳句
中南米
米国
民歌謡
粋歌
川柳
古詩歌
短歌
韓国
酒歌つれづれよしな記
創作ショート  ショート