湯崎 息
(俳句淀風庵)
きつねうどん
ラーメン
大衆食堂の片すみ
きつねを得々と食う
男の悲しい瞳が
このとき輝いている
うどんの一本一本に話しかけながら
飢えた口は容赦ない
男は笑いがとまらなかった
かばん
かばんの中に 悲哀がしのび込む
女房の心こもる弁当も
たちまち酸化してしまう
昼、男は箸を握る
酸っぱくなった飯も
男が接吻すると 中性になる
男は愉快である
帰りのかばんに
また悲哀がしのび込む
空の弁当箱にもしのび込む
それを女房が洗い落とす
月の下 歩く 歩く
何もない 何もない
ラーメンすすって
上皮暖め
うすぺっらな腹をさすり
せめて せめて
手を振って歩こう
チャルメラを聞きながら