アラビアンナイト酒詩
「アラジン魔法のランプ」「アリババと40人の盗賊」「シンドバードの冒険」に代表される『千夜一夜物語』は妃に裏切られたため、 すべての女性を憎むよう になったササン朝ペルシアのシャフリヤール王に、大臣の娘シャハラザードが千一夜にわたって聞かせた、世界一のお伽話です。
アラビア・ペルシア・トルコ・インドなど各地の説話が入り混じっており、最終的にまとめられたのは16世紀頃、カイロにおいてであるといわれますから、まさにアラブ全体を代表する物語といえましょう。
この物語の中に色恋や酒の詩がかなり挿入されていますのが、酒を詠んだ詩を選んで紹介しましょう。 由 無
参考:大木惇夫編訳『酒の詩歌十二ヶ月』
酒をめぐりて相逢へる
親しき友のよろこびと
恋され恋する若人の
互いに寄り添ふよろこびよ。
ああ、あまつさへ時は春、
華の王なる春なれば
花は紅、葉は緑、
世はいみじくも薫りたり。
いざ奮ひたて、すこやかに、
葡萄の酒を乾す者よ、
今ぞこの地は天の国
香も馨はしき水の流るる。
「仔鹿」の手にて酌まれずば
酒飲みたまふことなかれ、
賜り物のごとくにも
かぼそき手こそ愛しけれ、
まばゆきばかり紅顔の
酌の童のなかりせば
酒も何かは。
神よ、神よと呼ぶなかれ、
杯に満ちたる緑酒こそ
世にもすぐれし祈りなれ、
葡萄の下にわれ死なむ、
葡萄の葉より落つる露
土をくぐりて、わが骨を
しとど濡らさむ、薫らせむ。
死ぬと雖も 酒なきは
われに切なき極みなれ。
まどろむ者よ、起き出でよ、
めぐみの神の与へにし
この世の幸を謳はずや、
琥珀色なる美酒は
黄金の甕に満つるなり。
いざいざ酌まむ、よき酒を、
酌みて廻さむ、盃を、
まことこの世の悦楽は
酒に酔ひたるかの女の
いみじき歌をきくにあり。
かくも溢るるわが涙、
酒の流れときそひつつ
絶えせぬ涙、わが涙、
盃に満ちたる酒に似て
赤き血潮よ、わが涙、
かくも涙の流れしを
つゆだに知らぬ、かにかくに
飲むは涙か、はた酒か。
善き哉や、げにも善き哉、
盃と、なつかしき酒、
なみなみと注げ、大杯に、
われ乾さむ、生命の泉。
麝香の薫る盃に
なみなみとそそぎし美酒、
そを愛づる細腰の女に問ひぬ、
「この酒は君が頬よりしぼりしか」
女こたへぬ、「いな、いな、君よ、
紅くとも、薔薇なす頬より
など酒くみし時やある」
The Arabian Nights' Entertainments